大ブリテン島の北、北海に浮かぶオークニー諸島の一番大きな島メインランド。その島にあるスキャパ湾を望む高台の上に建てられたスキャパ蒸溜所は、スコットランド最北部に位置する蒸溜所の一つです。「スキャパ」とはノース語(ヴァイキングの言語)で「ボート」を意味します。
伝説によると、海の大怪獣に捧げられそうになった王姫を救い出そうと、一人の若者がピートを積んだ小舟で出撃。舟もろとも怪獣の口に飛び込み、腹の中でピートを燃やすと怪獣は悶え死に、その怪獣の歯が大小70余にも及ぶオークニー諸島になったとのこと。海原に浮かぶ島々は、その半分が無人島で、どんよりとした雲が空を覆い、丘では高緯度の寒冷な湿地に多いツツジ科の灌木ヒースが強い風に揺れています。
また、とても美しい風景で有名で、ウイスキー作家のアルフレッド・バーナード※は1887年に訪れ、著名な紀行文「大英帝国のウイスキー蒸溜所」の中で、「しかし、美しい海の風景は(木の)不在を補っている。眩い陽光の中では帆船の白い帆と、海岸線のあらゆる入江を知り尽くした乗組員に操られた舟が煌き、お気に入りの『オークニーの船乗りの歌』を歌う彼らの声が聞こえる」と詩的に表現しています。
1885年、島の南、スキャパ海峡に面して立つスキャパ蒸溜所が開設されました。北海と大西洋をつなぐこの海峡は、第1次世界大戦時の1918年にドイツの戦艦ヒンデンブルグとセドリックが沈められたことで有名で、崖から沈んだ戦艦の舟形が波間に見え、長い間、見物客で賑わったとのこと。蒸溜所はこの第一次世界大戦の間、スキャパ・フローに駐留していた英国海軍将校達の兵舎として使用され、ミルルームには彼らが作った木造の階段が残っており、英国海軍の思い出が偲ばれる蒸溜所として知られています。
※アルフレッド・バーナード
自らの足で蒸溜所を巡り、緻密な挿絵と共に蒸溜所の詳細な記録を残したウイスキー作家。1887年に出版された「大英帝国のウイスキー蒸溜所」は、モルトマニア必読と言われています。